1.原料
一般的に紙は植物繊維を原料として作られる。植物繊維は木材部(芯の硬いところなど)と、皮などの部や、木材に分類されない樹種など非木材に分類される。 |
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■非木材 |
和紙の原料としては、非木材(木の芯の硬いところ以外の部位)を使うことが一般的で、代表的なものとして楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)の外皮が挙げられる。 |
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楮(こうぞ) |
小川町で最も多く使われている原料。和紙の原料としては1年ものの皮のみを使用。
皮は外側から順に黒皮、甘皮、白皮の3層からなり、用途に応じて削り落とす。出来上がった和紙は丈夫で通気性に富む。また書画に用いるととげ感の強いにじみが生じる。 |
地場産 |
昭和中期頃に産業としての生産は終了。技術保存目的や一部の製品のみに使用。ただし他の国内産地の価格の倍程度になるため、使用は限定的。 |
四国産 |
国産主要産地の1つ。甘皮を残した六分引き処理の楮は地場産楮の雰囲気に似ているとされ、当工房では国産原料の主力として採用。 |
那須産 |
国産主要産地の1つ。価格も高いが、最高品質の原料と呼ぶ声もある。甘皮を残した処理をしていないため(白皮楮のみ流通)、当工房では採用せず。 |
タイ産 |
乾燥した白皮と、白皮を煮熟・漂白した通称ウェットパルプの2種類がある。日本で最も多く流通している原料。厳密には楮とは異なる植物であり、樹脂成分を多く含み、製品化した際に樹脂が混入することも有る。価格は四国産の1/8程度。 |
中国産 |
国産楮の代用品として黒皮、甘皮、白皮があり比較的古くから流通している。植物としては国産楮に良く似るが、出来上がった紙の強度を比較すると国産に劣るという声もある。価格は国産楮の1/3〜半値程度だが、処理のバラつき(ゴミの混入など)によるちり取りの手間を考えると、製品化した際にはそれほどの価格差は無くなる。当工房では国産楮の代用品として使用。 |
その他 |
過去に台湾、韓国、北朝鮮、パラグアイなどが流通していたが、現在では流通していない。 |
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三椏(みつまた) |
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国産 |
現行紙幣の原料としても有名で、ジンチョウゲ科に属す。処理は白皮がほとんど。滑らかで光沢のある紙に仕上がる反面、強度では楮に劣る。用途としては書画、印刷に適しているとされる。当工房では使用せず。 |
中国産 |
国産三椏の代用品。 |
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雁皮(がんぴ) |
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国産 |
ジンチョウゲ科。栽培が難しく、野生のものを原料とする。三椏同様、楮ほど丈夫ではないが、滑らかな仕上がりの紙となる。書画に好まれ、印刷物への適正もある。また、出来上がった紙に害虫が付きにくい。当工房では使用せず。 |
フィリピン産 |
正確にはサラゴと言う植物。元々は三椏の代用品として輸入する予定だったが、関税の安さから雁皮として輸入が始まった原料。雁皮紙よりも三椏紙に近い紙が出来る。当工房では書画系の紙などに使用。 |
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麻 |
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大麻 |
日本画の紙に好まれる。処理に強い薬品を使うことが一般的で、保存性に課題があるとも言われてる。当工房では使用せず。 |
マニラ麻 |
アバカ。バショウの仲間で、楮には劣るが比較的強い紙を作ることが出来る。当工房では板パルプ状になったものを使用。楮に比べ穏やかなにじみの書画系の紙を作ることが出来る。 |
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その他 |
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竹 |
中国産宣紙で使用されていることから書家に好まれる原料。処理に手間がかかる一方、非常に書き味が良いとのこと。当工房では使用せず。 |
藁 |
わら半紙の原料として多く流通していたが、近年は減少。主に書画系の和紙に配合される。当工房では使用せず。 |
桑 |
植物としては楮に似ているが、紙は強度で劣る。主に黒皮のまま使用し、主に桑チリと呼ばれる襖の下張りなどになる。当工房では使用せず。 |
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■木材 |
木材原料は木材パルプと呼ばれ(単にパルプとも言う)、主に洋紙の原料として使用されるが、安価な原料として一部の和紙にも利用されている。丈夫さに欠けるため、流し漉きでは補助原料として楮と配合して使われる。書画用紙で楮などと配合することで、にじみ、かすれなどの、書き味を調整することができる。当工房ではビーターにかけるだけの板パルプを使用。 |
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種類は一般的にアルファベット4〜6文字で表記される。
>頭文字がN=針葉樹 L=広葉樹
>2文字目がU=未晒 B=晒
>3文字目以降=「○」P。 P=パルプ
○の部分=木材をパルプ化するための処理方法 MP(機械パルプ)
木材を物理的にすり潰し、繊維を取り出す。
歩留まり(繊維の取り出せる量)が多い反面、劣化のもとになるリグニンを多く含む。 ・砕木パルプ(GP)
・リファイナーグランドパルプ(RGP) ・サーモメカニカルパルプ(TMP)
・ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)など
CP(化学パルプ)
木材を薬品処理し、繊維を取り出す。
純度の高い繊維を取りだせるため、MPよりも強度で勝る反面歩留まりは悪い。 ・クラフトパルプ(KP)
・サルファイドパルプ(SP) ・アルカリパルプ(AP) など |
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針葉樹 |
広葉樹よりも繊維が長く、一般的に和紙の原料としては針葉樹を使う。未晒しと晒、クラフト法とサルファイト法による処理のものがあるが、当工房ではクラフト法の2種を使用。 |
広葉樹 |
針葉樹よりも繊維が短く、和紙の原料としては一般的でない。 |
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■古紙 |
半紙の原料として使用されるが、当工房では使用せず。 |
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2.原料処理
楮、三椏、雁皮については樹皮が複数層からなるため、必要に応じて各層を削り取る(楮ひき・楮へぐりなどの呼称あり)作業。作業後は乾燥させ、次の作業まで保存しておく。 |
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白皮 |
主に紙の原料となる繊維(セルロース繊維)を含む皮。いずれの原料もこの白皮を残す。 |
甘皮 |
甘皮のついた状態の原料は楮、雁皮、サラゴがある。甘皮自体は紙を作ることが出来る繊維ではないが、これを含むことで目の詰まった紙になるほか、飴色の光沢が出る。
甘皮を取り除く量によって○分引き(へぐり)と呼ばれたり、甘皮を青皮と呼んだり産地によって表記の違いがみられる。 |
黒皮 |
一番外側の皮。チリ入り紙を作る際に残しておく場合があるほか、黒皮ごと苛性ソーダで煮熟し、漂白することで手間のかかる黒皮を削り取る作業を省略することもある。 |
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3.煮熟〜塵取り
乾燥した状態で保存している原料(皮)を柔らかくし、作る紙の種類に応じて、きれいにしていく作業。 |
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■煮熟 |
アルカリ成分を加えた熱湯で原料を煮、繊維(セルロース繊維)同士を繋ぎとめているリグニンと呼ばれる成分を溶かし、皮を柔らかくする。 |
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木灰 |
灰の中に含まれる炭酸カリウム(PH11程度)を抽出し煮熟する。
最も伝統的な製法の煮熟に用い、繊維へのダメージが少なく丈夫な紙が出来ると言われる。一部製法を除き使用は稀。 |
石灰 |
水酸化カルシウム(PH12程度) 木灰に次ぐ伝統的製法とされる。当工房では使用せず。 |
ソーダ灰 |
炭酸ナトリウム(PH11程度)
国産楮の煮熟においては最も使用頻度が高い。繊維への負担が少なく、紙にした際に比較的強度を保つことができる。 |
苛性ソーダ |
水酸化ナトリウム(〜PH14)
タイ産など外国産原料の煮熟に使用する、強アルカリ薬品。また、黒皮楮を苛性ソーダ煮熟処理し塩素漂白を施すことで黒皮ごと漂白され、黒皮を落とす作業を省くことができる。 |
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■塵取り・漂白 |
煮熟後にアルカリ成分と共に溶け出したリグニンを洗い流し、原料処理で取り残された黒皮などを取り除く。また、場合によっては漂白を施す。 |
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無漂白 |
未晒しとも言う。漂白をせずアクを抜いただけのもの。
アク抜きが不十分だと紙になった時リグニンが残り、茶色い斑点のもとになる。 |
天日漂白 |
流水に2、3日浸すと、水中の酸素と紫外線により白く晒される(オゾン漂白)。この漂白では劣化が少なく保存性が高い。 |
塩素 |
塩素の漂白作用による。容易できれいに仕上がるが、残留塩素が劣化の原因になることがある。 |
過酸化水素 |
塩素よりも繊維へのダメージは少ない漂白方法と言われる。 |
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4.打解・叩解
煮て柔らかくなった皮の繊維を叩いてほぐし、綿状にする作業。打解機、ビーターの使用が一般的。 |
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手打 |
樫の大棒(打解)、小棒(叩解)を使い行う。繊維の流出が少ないため、細かい繊維まで含んだ紙になる。 |
打解機 |
動力を用い、重しの付いた木を回転させながら落下させ、皮を叩く。 |
叩解機 |
ビーターともいう。ミキサーのような機械で、皮の繊維をほぐす。水とともに叩くため、細かい繊維の流出がある。
楮をほぐすのに適したナギナタビーターと、木材パルプなどをほぐすことが出来るホーレンダービーターがある。 |
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5.紙すき
抄紙とも言う。漉く方法=原料をシート状にする作業のこと。手漉き製法としては流し漉き・溜め漉きが一般的だが、流通量としては機械抄きが多い。 |
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■抄紙 |
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手漉き
(流し漉き) |
漉き桁(けた)という枠に漉き簀(す)をはさみ、水を汲み、揺すり、流すという作業を繰り返す漉き方。簀に乗った紙の元は敷詰と呼ばれる台の上に濡れた状態で重ねられ、これを紙床と言う。
流し漉きでは均一で薄く丈夫な紙を作ることができる。 |
手漉き
(溜め漉き) |
枠に金網を貼り付けた道具を主に用い、一度汲み、揺すり、水が切れるのを待って、間に布を挟み込みながら紙床に重ねる。流し漉きと違い、水を汲みかえる作業、水を流す作業が無い。
一般的にははがきなどの厚紙の製造に適す。 |
機械抄き |
抄紙機により大量生産される。手漉きの場合「漉く」と表記されることが多いのに対し、機械の場合「抄く」と表記されることが多い。一般的には連続して抄くため、ロール状したものを断裁するが、一部に四方耳付きのものもある。
また紙の優劣については、紙の仕上がりは原料由来の部分も多く、一概に機械抄きよりも手漉きが優れているとは言えない。 |
半機械式 |
流し漉きや溜め漉きのうち一部を機械化した製法。汲みこみを省いた方式や圧搾・乾燥(解説は後述)を省いた製法などがある。 |
流し込み |
桶などに解いた原料を、網のついた枠に流し込む。一枚ものになるため、枠のまま自然乾燥。特厚の紙や凹凸の有る紙を作ることができる。 |
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■ネリ |
水と原料に加える粘性のある液体。繊維を水中で浮遊させ、簀からの濾水を遅くすることで水を動かすことが出来るようになる。適度にゆするられた繊維は、細かい物だけが簀の上に定着し目の細かい紙となる。細かい繊維が一枚の紙の中だけで絡まっている状態を作ることで紙床に積んだ紙は圧搾の後一枚ずつはがすことが出来る。 |
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トロロアオイ |
オクラの仲間の根の部分を使用。高温や雑菌に弱いため、薬品(クレゾール)に漬け込むことで一年中使えるようにしている場合がほとんど。また、酸や衝撃などにも弱いいため、粘性が安定しない。 |
化学粘剤 |
高温や雑菌に強く、粘性が安定している一方で入れすぎると繊維が凝集してしまう。 |
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■染色 |
叩解時に染めるものと乾燥後に染める方法がある。自然のものでは草木染だが、一般的にはシリアス系化学染料など化学薬品を使う。日に当たると退色の起こるものもある。 |
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先染め |
ビーターの中で繊維を均一に染め上げる。無地の染紙の製法。無地の染紙(または無地の晒紙)をベースに色を付けた繊維を混ぜる色雲龍などもある。 |
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■漉き込み |
無地の原料に配合し、あわせて漉くことで模様のある紙にする。 |
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繊維 |
荒く打った楮の繊維などを入れることで雲竜紙のようにスジの多い紙になる。 |
黒皮・粕 |
大和チリなど、黒い斑点模様の入った紙になる。また、塵取りで出た繊維の粕を漉き込むと、より細かな模様やスジが入る。 |
異素材 |
桧や杉の皮、藁、紅花などの素材を漉き込んだ和紙。植物性のものがなじみやすく、動物性のもの(絹やウール)や水を弾くものはなじみにくい。 |
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■添加物 |
紙の性質や風合いを変えるために薬品などを加え、紙を作る。 |
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にじみ止め |
サイズパイン(松脂)を添加し、にじみや毛羽たちを抑える。定着剤として硫酸アルミニウムを加えるためPHが酸性に傾き劣化の要因となることがある。 |
でんぷん |
カチオンでんぷんと呼ばれる薬品を添加し、紙の強度を高めたり、紙の表面を滑らかにする。また、紙を固くする。 |
未晒し風着色 |
一度漂白した原料を着色し、未晒し風に仕上げる。細かいチリを漂白してしまうため、通常の未晒しよりもきれいに仕上がる。 |
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6.圧搾
積み重ねた紙床を板ではさみ、圧力をかけて水を絞る作業。かつてはてこの原理による脱水だったが、現在では油圧ジャッキを使用する。 |
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7.乾燥
濡れた状態の和紙(湿紙)を一枚ずつ紙床からはがし、板に貼り付ける作業。上下の紙は接してはいるが、繊維同士の絡みあいが無いためはがれる。 |
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天日乾燥 |
板干しとも言われ、日光により乾かす。貼り付ける板によっては板目の残る場合もある。鉄板乾燥よりも柔らかい紙になり、漂白をしていない紙の場合は紫外線により晒され、やや色が薄くなることがある。 |
ステンレス板乾燥 |
蒸気乾燥とも言われる。鉄またはステンレス製のパネルに熱湯もしくは蒸気を満たし、温まったパネル表面に湿紙を貼る。仕上がりは平滑で、固めの紙になる。 |
自然乾燥 |
流し込みなどで枠のまま干す。または、紙を紙床からはがし吊るして干すなど。乾燥時の紙の縮みを生かすために行うこともある。 |
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8.選別・加工
乾燥後、出来上がった製品を検品する。そのまま出荷する紙のほか、必要に応じて紙の加工を施し製品化する。 |
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■選別 |
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傷の有無 |
品質つ応じて出荷用、自社売用、加工用、再生の仕分けをする。 |
厚さの仕分け |
既定の厚さに収まっているかの選別。また、規定内の製品の厚薄を順にそろえ、50枚ないし100枚単位木で仕切る。 |
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■染色 |
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後染 |
ぼかし染めや板締めなど、模様のついた紙や、引き染のように無地の染などがある。 |
渋染 |
刷毛などで表面に柿渋を塗ることで茶色に染めるほか、水や摩擦に強い紙となる。 |
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■加工 |
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コンニャク強制 |
コンニャク粉をお湯で溶き、和紙に塗った後、必要に応じてもみ込む。強度が増し、しわの付いた和紙となる。 |
裏打ち |
裏から別の紙を貼り、厚さと強度を増す。 |
ドーサ引き |
刷毛などで表面にドーサ(にかわ)を塗ることで画材として適当なにじみ具合に調整する。 |