1、使用原料
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<四国産ナゼ皮楮>
外国産の原料を輸入する際に防虫剤を利用している、という話を聞いたことはありませんが、経験上(鼻水やくしゃみが出るなど)何らかの薬品の影響が否定できないため、また、煮熟の容易さから国産の原料を使用しました。 |
2、煮熟
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<炭職人、山田善三氏が炭を作る際に出た木灰による「灰汁煮」>
現在では作業の容易さから、煮熟には「ソーダ灰」や「苛性ソーダ」といった化学薬品を使用することがほとんどです。今回は、生活工房「つばさ・游」高橋さんにご紹介いただき、炭職人、山田善三氏の釜より灰をいただきました。
使用する灰の量は、「何の灰か」によって異なると言われ、ソバガラやヨモギの灰が最も煮熟に適している(使用量が少なくて済む)そうです。今回は間伐材などの薪の灰ですので、乾燥した楮の約2倍の灰を使用しました。なお、山田氏の灰で足りない分はわずかですが、工房で出た薪の灰で補いました。
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灰から灰汁を抽出する方法も様々ありますが、今回は最も単純な下記の方法で行いました。写真付きで紹介します。 |
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@灰を湯に入れ沸騰させる。
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A布を入れた栓つきのバケツで@を濾す。 |
B濾したものの上澄み液だけを利用する。 |
沸騰した湯の中(写真@)は文字通り灰色です。ただし先述の化学薬品と違って灰は水に溶けないので、沸騰が止まると灰は沈殿します。そのため、湯の中の灰や薪の燃えカスを取り除くため、写真Aのように布で濾します。そして濾されたものが写真Bです。茶色っぽい液体が「灰汁」です。
ちなみに触るとヌルヌルしています。この触った感触で煮えるか否かのおおよその判断ができます。余談ですが、舐めてみました。一般的には灰汁もその他アルカリも苦味がありますが(真似はしないでください、念のため)、この灰汁には若干しょっぱさを感じました。
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Bを再び釜で沸騰させ、3日間水に浸しておいた楮を入れます。化学薬品使用時の煮熟時間は沸騰後約2時間ですが、木灰煮なので、とりあえず煮えるまで様子を見ます。
なお、PH測定器や試験紙も今回は使っていません。(というか持っていませんので…)
左の写真が約1時間後。ソーダ灰で煮る時よりも楮が若干硬い気がします。そして甘皮(楮の真ん中の皮の部分)がほとんど溶けないで残っています。ただし、引っ張ればちぎれ、横にも広がるので煮えていない訳ではないようです。
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写真左が約2時間後。もう引き上げてもいいくらい煮えています。ソーダ灰との一番の違いはこの段階でも甘皮が残っていること。薬品を使うとこの甘皮はほとんど溶けてしまうことが分かりました。念のため、それから30分ほど蒸らしておいてから引き上げました。
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3、無漂白
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<未晒し(無漂白)>
普段目にする「白い紙」の多くは漂白剤により色を抜かれて白くなってて、和紙の場合の多くは塩素系漂白剤を使用します。
伝統的製法で原料を白くするには流水と日光で晒したり、雪の中で晒したりしますが、今回は灰汁を抜いただけの「未晒し」の原料を使います。
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…灰汁抜き |
ちりとり後。よく煮えています。
つやのある茶色です。
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4、打解・叩解
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<打解機・叩解機による機械打ち>
先述のとおり、今回は「無添加であること」を優先した、利用しやすい和紙にするため、機械を使いました。
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5、紙すき/紙干し
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<収穫後に乾燥保存したトロロアオイ>
木灰煮と並び、無添加和紙のもう一つの重要な点は「トロロアオイ」です。
トロロアオイは植物の根であるため、乾燥保存しただけでは夏までには腐って使い物にならなくなってしまいます。昔であれば、夏はそもそも紙すきを行っていなかったので、収穫したトロロアオイは乾燥して春までに紙すきを終えることが一般的でした。現在は通年で紙すきをするため、トロロアオイは「クレゾール」もしくは「硫酸銅と石灰の水溶液」、「ホルマリン」に漬けて保存し、流水でよく洗浄してから紙すきに使います。また、トロロアオイを用いず、化学ネリと言われる「合成粘剤」を使用している場合もあります。
今回の無添加和紙では収穫したトロロアオイを乾燥保存しておき、薬品に漬け込まずに使用しました。
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乾燥したトロロアオイ(生トロ)を洗い、泥を落とし、叩いて水に漬けたもの。クレゾール漬けのものよりも粘液が澄んでいて、臭いも野菜の生臭さがあります。
十分な粘度(粘り気)が出るまで5日くらいかかりましたが、これで紙すきは十分でした。
ここから先の作業、紙すきはいつものとおりの流し漉き。乾燥は板干しによる天日乾燥で行いました。
(作業の様子は和紙のできるまでを参照してください)
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6、出来上がり
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上写真が出来上がった無添加和紙です。
天気があまり良くなかったので木目が強めについていますが、壁紙に使うとのことなので、木目が逆に生きるのではないでしょうか? |
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今回の無添加和紙、紙としては保存性、環境性能も良いものと思っています。ただ、化学薬品を使った紙を使い慣れている人が多い現状では、価格や用途で一般的には使いにくさもあるかもしれません。それでもこのような紙を必要としている人が居る以上、このような紙作りの技法は守らなければなりませんし、無添加の和紙の存在も広く知らしめていかなければならないと思います。